阿部 詩
パーク24
Uta Abe
応援に応えられる強い選手になりたい
1年ずつ大切に 再びの世界一へ
2025.12.23
インタビュー・文=三河賢文 写真=加藤麻希
コンディショニングで重要なのは、当たり前を徹底すること
- 柔道という競技の魅力は、どのような点にあると考えていますか?
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阿部柔道は一人でできるものではなく、相手がいてこそ成り立つ競技です。ですから強くなることはもちろんですが、その前に礼節が身に付き、相手への感謝やリスペクトを抱けるようになります。もちろん、試合で相手を投げたときの達成感も大きいです。それまでの練習を頑張って良かった、そう感じられる瞬間ですね。
- 日々、どれくらいトレーニングや稽古を行っていますか?
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阿部試合がなければ練習は週6日です。2時間弱のトレーニングと2時間~2時間半の稽古を、睡眠などの休息を挟んで行っています。精神面を鍛える意味で、ランニングすることもあります。練習が終わったら身体をケア、夕食、そして就寝という繰り返しです。
- 年間で見ると、どのようなスケジュールで練習や試合に取り組まれているのでしょうか?
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阿部柔道にはオフシーズンというものがないため、一年間を通して試合出場のスケジュールを組むことになります。その中には、代表選考にかかわる試合があります。だいたい年間3~4の大会に出場しますが、年明けの2~3月、半ばの6~8月、そして、年の後半10〜12月に出場することが多いです。
試合で勝つためには、とにかく毎日の練習が大切です。加えて、常に高いパフォーマンスを発揮することも求められ、そのためにはコンディションづくりも欠かせません。重要なのは睡眠、食事、ケアを受けるなど、当たり前のことをしっかりすることだと考えています。
睡眠時間はしっかり確保するようにしていて、基本的に夜は7~8時間、昼間も練習の合間に1時間半くらい寝ています。食事については、私はあまり減量の必要がないので、細かく管理するということはありません。栄養も日常の食事で十分に摂れていると思います。
- 身体のケアは、具体的にどのようなことを行われていますか?
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阿部ストレッチや電気治療などを自分で行うほか、週2回は治療を受けています。年齢を重ねるごとに、ケアの重要性を感じるようになりました。夜は必ず立体動態波を当てますし、治療院では1時間半くらい時間をかけています。試合が終わるとケアの頻度が落ちてしまいますが、試合終わりだからこそケアを受けて身体を回復させた方が良いのかなという気もしています。
2019年に両肩をケガしたのですが、このことがきっかけでよりケアを意識するようになりました。ちゃんと身体に気を配らなければ、選手としてやっていけないのだと実感しました。2021年に東京で開催された国際大会まではリハビリに通いながら練習し、毎晩ストレッチしながら母親に電気を当ててもらっていたのを覚えています。疲労が溜まってくると、身体は機能しなくなるんですよね。ですから、そうならないよう日々のケアが重要ですし、ちゃんと時間を設けて欠かさないようにしています。
いつ、どこをケガするか分からないからこそ、日々のケアが大切
- 治療器を初めて知ったのは、いつでしたか?
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阿部高校1年生の頃、先輩から治療器を貸してもらい、その時に治療器というものを知りました。マイクロカレントの機器だったのですが、微弱なので治療している実感が少なく、何に効くのかも分からず使っていました。
でも、治療器を使用すると痛みが減るのが分かるので、これは凄いなと思いました。大学に入ってからは自宅でも使うようになって、今では自分にとってなくてはならない存在です。シニアの合宿でも、超音波や立体動態波を使用していました。毎日のように使い始めたのは、先ほども触れた2021年の国際大会の前からです。パーク24の寮にも治療器が設置されています。
- 柔道では、どのような部位を痛めやすいのでしょうか?
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阿部痛めるリスクで言えば全身ですが、特に挙げるのであれば肩や肘、腰、首、足首などでしょうか。以前、手首を痛めたこともあります。対人競技なので、こうした痛みは練習したからといって回避できるものではありません。いつ、どうなるかは誰にもわからないんです。だからこそ、ケガをしないよう日々のケアが欠かせませんし、常に高いコンディションを維持して練習や試合に臨めるよう準備する必要があります。これは、柔道という競技を続けるうえで難しい部分ですね。
- 2025年ブダペスト世界柔道選手権大会やグランドスラム東京2025の前は、治療器をどのように活用されていましたか?
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阿部ブダペスト世界選手権大会のときはケガこそしていなかったものの、仙腸関節を痛めていたので、腰にずっと立体動態波を当てていました。また、肩にもだるさがあったので、両肩と腰で順番に使うようにしてケアしていました。
一方で、グランドスラム東京では、試合の2週間前に肋骨を骨折していることが発覚したんです。最初は神経の痛みだと思って、それに効く当て方を教わって毎日40分ほど治療していました。しかし、なかなか良くならないので検査をしてみたら、実は骨折しているということが判明したんです。そこから試合までは、骨折の痛みに効く当て方を教わって同じく毎日40分の治療。練習も継続しなければいけないので痛みが引くことはありませんでしたが、寝技でぶつけない限り、技に入ること自体は問題なかったので、試合に臨むことができました。今は完治して、競技に影響はありません。
- 日頃のセルフケアや、トレーナーとの協力体制などについて教えてください。
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阿部治療器は1日3回ほど当てています。ケガをしていないときは昼と夜の2回にすることもありますが、寝る前は必ず使用していますね。小型のマイクロカレント機器を日中に着けて過ごしたり、そのまま寝たりすることもあります。
セルフケア以外だと治療してもらう人が決まっていて、例えばマッサージはこの人に頼むなど使い分けしています。腰の痛みが治らなかったときは、体操競技のトレーナーに診てもらいました。そのときの状態に応じ、信頼できる方がいるので心強いです。
ケガをする前に、早い段階から治療器の重要性を知って欲しい
- これからトップを目指す選手にとって、どんな場面で治療器を活用するのが有効だと思われますか?
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阿部私自身そうでしたが、恐らく多くの方は痛みが出たタイミングで治療器を使用するのではないでしょうか。でも、痛みが出る前や疲労が溜まった、あるいは溜まる前から、日々活用することをおすすめします。痛みやケガを治すだけでなく、そうならない身体を維持するためのサポートにも有効だからです。
例えば中学生や高校生だと、顧問の先生に知識が少なかったり、ケアの重要性が理解できていなかったりする場合もあります。少し疲労を感じていたとしても、元気だから放置してしまうこともあるでしょう。若いうちは、ある程度の無理がきいてしまいますから。でも、そういう時期からでも使う習慣をつけることが大切だと思います。気付かないうちに疲労が蓄積して、ケガをするリスクが高まっている可能性があるからです。
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とはいえ、治療器の重要性に気付かないと、なかなか自分に必要なものだとは分からないものです。だからこそ日頃から使う機会を作り、痛みが引いたり疲労感が軽減されたりという体験をしてもらうことが大切ではないでしょうか。例えば、治療器を1回使ったらご褒美をあげるなど、使おうと思えるきっかけを作ると良いかもしれません(笑)。
私自身、大きなケガをする前まで、毎日は使っていませんでした。でも、ケガしてからでは遅いんです。そのことを早い段階で知ってもらいたいですね。
- 柔道を含めた競技者の皆さんに、アドバイスがあればお願いします。
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阿部競技していると、本当にいろんなことが起きます。良いこともあれば悪いこともありますが、それでも楽しむことを忘れずに取り組んで欲しいです。もちろん、夢や目標を達成できることは素晴らしいと思います。でも諦めずに続ければ、たとえ夢が叶わなかったとしても、その中で得るものは必ずあるはずです。得られたものを大切に、その先も歩み続けていくことが大切なのだと思います。
柔道を通じて人生を充実させていきたい
- 最後に、ご自身の今後の目標について教えてください。
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阿部まずは1年ずつしっかり練習して代表を勝ち取り、2028年の国際大会に出場すること。そして、優勝を果たすことが目標です。1年1年すべてが勝負ですから、年齢を重ねていく中でもケガをしない身体づくりは欠かせません。しっかり自分自身と向き合い、自分の身体のことも理解しながら取り組みます。
また、これは中学生の頃から思っているのですが、親しみやすい、誰からも愛されて応援される選手になりたいです。応援してくれる人はたくさんいますが、その人たちに応えられているかといえば、まだまだ発展途上です。もっと強くなり、結果を残して、皆さんの応援に応えることも一つの目標です。
そして将来的には、小さい子に柔道を教えていきたいなとも思っています。ただ、最近は大学生の選手を見ることが多く、大学で教えるのも良い気がし始めています。柔道に関わる中で、自分自身の人生を充実させていきたいですね。
2000年7月14日生まれ。兵庫県出身。パーク24所属。柔道女子52kg級。
兄・阿部一二三の影響で5歳から柔道を始める。高校1年時の2017年にグランプリ デュッセルドルフを史上最年少で優勝。以降、圧倒的な強さで数々の国際大会で優勝を重ね、東京2020オリンピックでは史上初の兄妹同時優勝を果たす。
2024年のパリ2024オリンピックでは混合団体で銀メダル。2025年は、オリンピック以来の復帰戦となったグランドスラム・バクーでの優勝を皮切りに、全日本選抜柔道体重別選手権大会、ブダペスト世界柔道選手権大会、グランドスラム東京と、出場した全ての大会で優勝を果たす。