有村 智恵
Chie Arimura
心に響くプレーを目指して
自分の身体と向き合いゴルフを続ける努力を
2022.07.14
一打を絶対に無駄にしない
- 10歳から競技を始めて、長く活躍されています。有村選手が思う、ゴルフの魅力とは何でしょうか?
-
有村たくさんありますけど、一つは、自然を楽しめることです。例えば、全英オープンの会場であるセントアンドリュースは、あまり人工的ではなく、自然の多いコース。日本の場合は(山が多く)高低差が激しいコースが多いです。四季があるので、桜や紅葉が綺麗な場所もたくさんありますし、市街地あるいは海が見えるコースもあって、様々な景色が楽しめます。
もう一つは、同伴競技者と会話をしながら楽しめる点です。これは、ほかの競技にはあまりない特徴で、性別や年齢も問わず、一緒に楽しめます。私たちプロ選手も、ジュニアの選手とラウンドする(コースを周る)ことがありますし、先日は91歳の道場六三郎さん(料理家)とも一緒にゴルフをさせていただきました。
- 様々な方と競技をされる中、ご自身はどんなゴルファーでありたいと意識されていますか?
-
有村ゴルフの良さ、素晴らしさを広めていくことは大事にしています。ゴルフは、自分自身との戦いと言われますが、私は人生において大事なことをゴルフを通して学んできました。例えば、ミスをしたときに引きずらず、気持ちを切り替えて次にどう生かすかを考えることの大切さ。または、ほかの選手が良いプレーをしたときにスコアの差からプレッシャーを感じても自分のプレーに集中するメンタル。これらは、普段の生活やほかのお仕事でも生かせるものだと思います。そういった思考や感覚、どんな人生を歩んできたか、どんな人生観を持っているかを、プレーで表現できる、見た人に伝わるゴルファーになりたいと思っています。
- 「最終日に強い」と言われる部分は、有村選手の個性では?
-
有村どんなときでも最後まで諦めない気持ちは、常に持っています。成績が悪くても「どうせ、バーディーを取っても順位は上がらない」と思わず、何か次につながるきっかけになるようにしています。一打を絶対に無駄にしないことは強く心掛けているので、良いときは最終日の爆発的なスコアにつながることがあります。何より、一生懸命にボールを打ち続ける姿勢は、見てくださる方の心に響くものと思っていますし、忘れないようにしたいです。
- そうした心がけは、どんなきっかけで築かれたのでしょうか?
-
有村私たちの世代では、大きなロールモデル(手本)として宮里藍さんがいます。東北高校の2年上の先輩ですが、私は中学生のときに出会っています。高校時代から大きな活躍をされて、プレッシャーを感じて苦しみながらも相手を慮る気持ちを忘れなかったり、ゴルフに対する紳士的な気持ちを持ち続けたりしている姿を傍で見させてもらい、たくさんのことを教わった気がします。
気をつけるべきことの8割はコンディショニング
- ずっと変わらず大事にされているポリシーがある一方、トレーニングの面では、キャリアを築く中で準備の仕方は変化されていますか?
-
有村はい。20代前半は、とにかくきついトレーニングをたくさんやっていましたが、20代後半からは、同じ内容だと、身体に硬さを感じて柔軟性や可動域に影響が出るようになりました。30代になると、なぜ、調子が悪いのだろうと分析すると、身体に硬さがあってスイングが思うように回っていないことがあって、硬さに気付くのが遅くなった気がします。
今は、自分の身体がどのような状態にあるのか気付けるようになるためのトレーニングもしなければいけなくなりました。例えば、足裏の感覚が鈍くなると、フェアウェイやグリーンの傾斜が分からず(カップまでの)ラインが読めなくなったり、傾斜に応じた対応ができなくなったりします。そういうところも、トレーニングで足裏の感覚を養うことでケアしています。若いときには「なぜ、あんなに楽なことをやっているのかな」なんて思っていましたけど(笑)、必要。身体と向き合う時間は、本当に長くなっています。
- コンディショニングの重要性は、それだけ大きいのですね。
-
有村「心技体」という言葉がありますけど、私は「体心技」の順番だと思っています。夏場で暑い日が続く中、大会2日目で厳しい順位のときに、ふと「予選落ちの方が楽だな、2日間休めるし……」と思ってしまうことがありますが、そんな気持ち(心)になる理由は、身体の疲労以外にありません。
ゴルフのスイングを調整するときも、技術より身体に改善ポイントがあることが少なくありません。「なぜか、身体が浮いてしまう」と感じてスイングを迷っているけど、実は体幹を鍛えれば解決することもあります。最近は、課題をトレーニングで補うべきか、スイングで補うべきかとコーチとよく話していますが、気をつけるべきことの8割くらいは、身体のコンディショニング。若いときからもっと身体に気をつけておけば良かったと思います。
- 若いときにスイングのベースができているから言えることかもしれません。
-
有村そうですね。私が米国に行ったとき、向こうの選手は練習場で全然、球を打っていませんでした。もちろん、スイングプレーン(クラブシャフトの軌道)がバラバラな人は、スイングを繰り返すことが大事です。でも、ある程度プレーンが決まれば、どうキープするかの問題です。米国では、どうやって身体の状態を保って、スイングを再現し続けるかに重きを置いていました。だから、ジムにいるか、ショットの感覚を確かめるためのショートゲームのどちらか。あの頃に、身体の状態が良ければ、ある程度良いスイングはできるものだと、大きく考え方が変わりました。
- 米国のツアーに参加したのが2013年。考え方に大きな刺激があったのですね。
-
有村25歳で身体も変わっていく時期でしたし、スランプに陥った時期もありました。本当に紆余曲折があって、よく考えるようになった時期でした。米国のトレーナーさんの下で、様々な器具を使うハードなトレーニングもやりましたが、身体が硬くなってしまい、向いていないと感じました。
-
当時からしっかりと知識があって、スイングを改善するための具体的なプランをコーチと一緒に自分で立てられていれば、スランプはもっと短く済んだかもしれないという後悔もあります。ただ、やってみなければ知ることができないこともあります。今は、自分の感覚だけでなく、コーチやトレーナーに客観的に見てもらって、どの部分の動きが硬いか気付けるように注意していて、プレーの改善に向けてすごく良い話ができています。
良いプレーのためにはコンスタントなケアが大切
- 米国に行かれる前、国内で超音波治療機器を購入されたとうかがいましたが、セルフケアにも関心を強めた時期だったのでしょうか?
-
有村2011年の夏に左手首を痛めて、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷の診断を受けたときです。当時お世話になっていたトレーナーさんが勤めていた接骨院で使用していた機器を購入しました。すぐに痛みが取れるわけではないですけど、治療を行った後に少し手首を動かしてみると、痛みが弱まっている感覚があったので、これは続けていけば良くなりそうだと思って毎日使い続けました。ただ、当時は自分自身に知識はなくて、トレーナーさんが機器の使い方を聞いて来て下さって、トレーナーさんに使ってもらっていたので、お任せしているだけでした。
- 現在は、どのように使用されていますか?
-
有村手首が治ってからは使っていなかったのですが、21年5月から右足のハムストリングスに突っ張る感覚が残るようになってしまい、次第に足を少し伸ばすだけでも突っ張る感覚が強くなりました。何をやっても治らず、リハビリ施設に行ったところ、「かなり奥の部分で筋肉が張り付き合っていて、手では届かない部分。超音波じゃないと届かない」と言われて「以前、使っていた!」と思い出して、以前とは別の機器ですが、また使うようになりました。
今は、何パターンか使い方を教えてもらって、自分で考えて使っています。特に張りが強いところは、念入りに行います。年齢を重ねていくと、競技をやっていなくても、人間の身体はどんどん硬くなっていきます。特に、筋肉の表面ではなく、骨と筋肉がつながっている箇所など深い部分がかなり硬くなっていて、表面をほぐしても内面がほぐれていないために、またすぐに硬くなる繰り返しになりがちです。深部はコンスタントなケアが大事。痛いときだけでなく、常に使っています。1カ所で16分かけているので、治療だけで30分以上かけるときもあります。使ってみると、治療器を当てていた箇所が温まるので、筋肉が緩む感覚があります。治療を終えたら必ず身体を動かしてチェックしますが、突っ張る感覚は軽減します。
- 筋肉に硬さを感じると、プレーには、どのような影響がありますか?
-
有村状態が悪いときは、ひざを伸ばしていても、前屈したときのように、突っ張る感じがありました。ゴルフはスイングの際に必ず前屈姿勢になって、回旋の動きを入れます。突っ張った部分があると、どうしても、ほかの場所に力が逃げてしまったり、重心移動が上手くできなかったりします。また、痛みを感じると、その個所をかばって別の個所に負担がかかってしまい、18ホールを終えるまでに新たな張りが生まれてしまいます。あとは、背中や腰は張りが出やすい部分で、ちょっと極端に表現すると、スイングで回せる可動域自体が狭まってしまいます。
自分の身体と向き合いゴルフを続けたい
- 身体を大事にされて長くプレーしていただきたいです。最後に、今後の目標を教えてください。
-
有村やっぱり、ずっとゴルフを楽しんでいきたいですし、それが競技者という形であればいいなと思っています。様々なところでいろいろな人とゴルフをするのは、ゴルファーとして楽しみなので、できるだけ長く続けたいです。女性は、年齢を重ねることや、出産などを含めて身体が変化していく部分があるものですが、その中でもしっかりと自分の身体と向き合ってゴルフを続ける努力をしていきたいです。
また、最近、大会をプロデュースする立場を経験したのですが、ほかの選手が楽しみながらやっている姿を見て、大会に出場するのとは違う感動を味わいました。そういったことも含め、どんな形でもいいのでゴルフに携わり続けたいです。
1987年11月22日生まれ。熊本県出身。
10歳から父の勧めでゴルフを始める。中学3年時に全国中学ゴルフ選手権で優勝。ゴルフの名門・東北高校卒業後、2006年のプロテストにトップで合格。プロ2年目の2008 年、「プロミスレディス」で初優勝。翌2009年には賞金ランキング3位と大きく躍進する。
2012年に「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」で悲願の国内メジャー初制覇。2013年からはアメリカツアーに参戦。
2018年「サマンサタバサ ガールズコレクション・レディーストーナメント」で、6年ぶりの復活優勝を果たす。