INTERVIEW インタビュー

杉原 愛子

Aiko Sugihara

体操の魅力を伝えたい

大舞台を超え、新たな目標へ

2022.3.25

体操競技選手「杉原 愛子」さん

インタビュー・文=平野貴也 写真=戸田麻子

自分らしく常にポジティブに

インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん
コロナ禍で様々な大会の予定が変更されるなど大変だったと思いますが、競技人生の大目標としていた昨夏の大会を終えて、現在は、どのように過ごしていますか?

杉原最初、20年の春に新型コロナウイルスが問題になったときは、2カ月ほど練習ができませんでしたが、多くの方々のご協力によって、無観客ではあっても試合ができるようになりましたし、気を付ける部分も分かってきたので、競技活動はしっかりと行えました。

一番大きな目標にしていた大会が終わったので、昨年10月に膝の手術をして、ゆっくりと休養していました。人生をかけて臨んだ大会だったので、その後の目標をどうすればいいか悩みましたが、年が明けてから、22年は6月の種目別大会に出ようと目標に定めて、今は体操を楽しみながら、少しずつ練習を再開している段階です。

ご自身の名を冠した大技(平均台の足持ち2回ターン「スギハラ」)を持っていますし、見ている私たちは高難度の技に驚きますが、床運動で好きなアーティストの曲や振り付けを用いるなど、体操を楽しみたい、見ている人を楽しませたいという姿勢が強く伝わってくるのも杉原選手の魅力だと思います。体操のどんなところに魅力を感じていますか?
インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん

杉原私は、演技をすることで、見ている人も巻き込んで楽しめる空間を作りたいと思っています。難しそうな技を簡単にやって見せたり、できないと思うような動きで身体を操ったりすることで、見ている人が盛り上がるのが、体操の魅力の一つ。自分の演技を見て、楽しんでもらえたら嬉しいです。

常にポジティブでいるところが、自分の特長だと思っています。疲れたり、失敗で気持ちが沈んだりすることはありますが、そういうときこそ、どうやったら自分の中で楽しくできるかを考えます。武庫川女子大学に入学してからは、練習でも自主性が大事になり、以前にも増して考えるようになりました。例えば、自分のこだわりたいことに時間をかけるようになりました。その方が自分を表現できます。あと、ポジティブでいられることは、活動拠点を関西に戻したことで、一人暮らしから、笑いの絶えない家族との生活に戻ったことも、大きく影響していると思います。

大切なのは自分の状態を把握すること

大変なときもポジティブに考える姿勢が、エネルギッシュな演技につながっているのですね。しかし、楽しそうに見えますが、曲芸のような技の連続で、身体の負担は大きいと思います。どのようなスケジュールで活動し、コンディション管理を行っていますか?

杉原去年の夏までは、休学して競技活動に専念していたので、2部練習が基本でした。体作りやパーソナルトレーニングが主体の練習を午前に約3時間。午後に各種目の実戦練習を4時間くらいやっていました。疲労が溜まっているときは、週1日2時間程度の軽めのトレーニングに留めることがありましたし、完全なオフも週1日は取っていました。

インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん

コンディション管理の面では、大学内で応用栄養学を研究している今村友美先生に体操部をサポートしていただいていて、月に一度、体組成を計測しています。私の場合は6.5~7.5%くらいの体脂肪率だと動きやすいと感じることなどが分かってきて、調整の目安にしています。女性の場合は、生理への影響もあるので、体重や脂肪を減らし過ぎてもいけません。また、生理前は水分量が多くなってむくんでしまうので、そういうタイミングで計ると、数字も変わってきます。安定して動ける状態を自分で知ることは大切だと思います。少しずつ、自分の身体の状態が感覚と一致するようになって、最近は、ちょっと身体が重いなと感じて計ってみると、やっぱり数百グラム増えていたということがあります。

杉原選手は15歳で日本一になり、高校1年で日本代表に入りましたが、体操は10代からトップレベルで活躍する選手が多い競技です。コンディション管理の知識が追いつかない部分もあったのではないかと思います。

杉原15歳くらいまでは、あまり考えていませんでしたね(笑)。特に気を付けなくても、身体が軽くて柔らかく、大きなケガもありませんでした。でも、10代の後半になると、急に疲労や痛みを感じることが増えて、19歳のとき、2018年に出場権を得ていた世界大会を腰痛で欠場しなければいけなくなり、コンディション管理の大切さを痛感しました。

今は、マッサージをしてもらうトレーナーさんに筋肉の張り具合を聞くなど、日ごろからサポートしてくださる方とコミュニケーションを取って、身体の状態を把握するように注意しています。睡眠も7時間は取るようにしています。

インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん

写真=土橋ココ選手

身体の状態は、どうやって把握できるようになったのですか?

杉原コンディションが悪いと感じるのは、疲れていて動きが鈍いときと、生理前など、むくみの影響で筋反応が悪いときの2パターンがあります。技術ではなく、身体の状態が理由で技ができない状態なので、無理に成功させようとせず、技のテンポを遅くしたり、難度を下げたり、練習を止めたりします。

以前は、技ができないと悔しくて、挑戦を続けてしまうことが多かったのですが、いつも同じ状態のつもりで動くと、身体に負担がかかり過ぎます。技を成功させられない状態だと感じているのに無理に挑戦したり、すごく調子が良くて身体が動き過ぎるときに加減ができなかったりして、ケガをしました。身体の状態を把握して、筋反応が問題だと分かっていれば、トレーニング前に、神経系に刺激を入れる動きを行うことで改善を図れますし、試合でもパフォーマンスが変わります。自分で状態を把握するためには、セルフケアをすることが大事だと思います。

セルフケアで効果を実感

インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん
セルフケアの一つとして、治療器の使用があります。ご実家にもあって幼い時から馴染みがあるそうですが、いつから、どのように使用していますか?

杉原自宅にある治療器は、体操をやっていた4歳上の姉のために両親が購入したものです。最初は、私はどこも痛くないのに「ここ痛いねん」とか言って、姉が使っている物を自分も使ってみたいだけでした(笑)。治療器として意識して使ったのは、高校の時が最初だったと思います。

今は、筋肉痛になったときなどに回復を早める目的でマイクロカレントをよく使っています。ほぼ毎日使っていて、お風呂上りにオイルマッサージをして、拭いた後は、翌朝の起床まで、ずっと付けています。
身体が酷い状態のときは、寝ているときに痛みで起きてしまうのですが、そういうことが減りました。また、たまにやるのを忘れて寝てしまったときは、前日と変わらないと感じるので、治療器の使用で確実に前日より良い状態になっていると感じます。

インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん
治療器を使って良かったと思ったエピソードがあれば、教えてください。

杉原実は、メディアの方にはあまり話さなかったことなのですが、19年の冬から20年の春にかけて、右足の舟状骨を、完全骨折の一歩手前の段階まで痛めていました。19年10月の世界大会前に左足首を痛めたのですが、それをかばって、逆足に負担がかかり過ぎていました。夏の大会がコロナ禍で1年延期になったので手術をしたのですが、このときにコンパクトな超音波骨折治療器を20分、2〜3セットで使いました。負傷箇所に当て続けるだけで、刺激があるわけではないので「これで治るの?」と半信半疑でしたが、数日で痛みが軽減されましたし、予定より2カ月くらい早く復帰できて驚きました。このときは、使えていなかった筋肉を刺激するために、小型のEMSも使ってふくらはぎに刺激を入れました。

その後、同じ年の7月くらいに、靭帯断裂寸前のケガを左足首に負ったときも、お医者さんから勧められて1日に3回使っていました。跳馬の2回ひねりをどうしても試合でやりたくて集中的に練習していた時期だったので、それができなくなることや、試合に間に合わないかもしれないことを考えると不安でした。学生選手権や、夏の大会に出るための予選が続く時期で、実戦で技ができず「試合まで、あと1週間あれば間に合ったのに……」と思うのも嫌でした。治療期間を短縮して早く練習に復帰できて、本当に助かりました。

治療器の使用ですが、主に負傷した状況で、ご自宅で使うのでしょうか?

杉原いえ、マイクロカレントは、小さくて持ち運びが可能なので、海外遠征のときには、飛行機の中でふくらはぎなどの事前のケアにも使っていました。渡航してすぐの練習では筋反応が悪いことがあるのですが、それを感じなくて、効果を感じました。夏の大会では、超音波骨折治療器を大会の選手宿泊施設に持ち込みました。直前練習で脛骨を痛めたので、自室で使っていたのですが、遠征等の宿泊先などで自分一人でできるのが良いなと思います。

これからも大好きな体操に関わっていきたい

インタビューに答える、体操競技選手「杉原 愛子」さん
ケガとも戦いながら、あらゆる体操選手が目指す大舞台に2度出場したわけですが、この先は、何を目指していくのでしょうか。最後に、今後の抱負を教えてください。

杉原今後について、競技成績の面では、最近になって、次の大会の目標を決めたばかりなので、まだ先のことは、あまり考えられません。今は、選手と、学生コーチを両立していて、将来的には指導者の道も考えています。審判の勉強や英語の勉強も始めました。体操競技は、まだ一般にはマイナーな部分もあるので、エキシビションのイベントなどで、演技を通じて、なるべく多くの人に体操の魅力を伝えることができたらいいなとも考えています。

人生で2度も、目指していた世界大会に出られたのは、周りの方の協力のおかげです。とても感謝していますし、自分で誇りにも思っています。ずっと続けている体操が大好きなので、何かしらの形でずっと関わっていたいと思っています。

体操競技選手「杉原 愛子」さん
杉原 愛子 (すぎはら・あいこ)

1999年9月19日生まれ。大阪府出身。武庫川女子大学 体操部 所属。
両親と姉の影響で4歳から体操を始める。中学3年時の2014年に全日本ジュニア体操競技選手権大会にて個人総合優勝。翌2015年の第54回NHK杯体操選手権においても個人総合優勝を果たし、初の日本代表入りを決める。

2015年 第6回アジア体操競技選手権 女子団体・個人総合 優勝。2016年 リオデジャネイロオリンピック 女子団体4位。2020年 第74回全日本学生体操競技選手権大会 個人総合優勝(2連覇)。2大会連続出場となる東京2020オリンピックでは女子団体で5位入賞を果たす。