INTERVIEW インタビュー

前田

健太

Kenta Maeda

真価が問われる2年目

世界挑戦を支えるコンディショニング

2017.01.30

伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん

PHOTO:黒田敏之/広中憔麻/石川慶和

海外移籍1年目、満足いく結果と残る課題

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
海外に移籍され、1年目で見事に16勝を上げられましたが、この数字はご自身でも満足のいく結果だったのではないでしょうか。

前田そうですね。海外で挑戦してみたいという大きな夢が叶った年なので、まずはマウンドに立てたことが嬉しかったです。そして実際に投げてみて、正直言って選手のレベルの高さには驚かされました。これからいろいろと修正しなければいけないところがたくさん見えた年でもありました。

でも、一年を通して考えると良かったかなと思います。ローテーションを守れたことに関しても満足していますし、初先発で勝利することもでき、またその試合でホームランも打つことができて、みんなに名前を覚えてもらうきっかけにもなりましたし、いいデビュー戦になったと思います(笑)。

チーム内でただ一人ローテーションを守り通したと言われていますが。

前田正直なところあまり苦労はしなかったですね。移籍1年目ということでチームにはいろいろと配慮してもらいましたし、たとえばイニング数もそんなに投げていません。本当の真価が問われるのは2年目からだと思っています。これからは僕のピッチングも研究されるでしょうし、2年目以降、課題を克服して成長しないといけないと思っています。

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
海外では、野球をする環境が大きく変わったと思いますが、言葉や食事など苦労されたことはありますか。

前田やはり英語をもっとマスターしたいですね(笑)。チームメートとの信頼関係を築く上でコミュニケーションは必要ですから。食事に関しては家族が栄養バランスを考えてくれていますので問題はありません。移動時間に関しても、長くて大変じゃないかと聞かれることがありますが、僕は移動が嫌いではないので、全然苦にはならないです。広島時代からよく新幹線に乗って4時間くらい移動していましたから(笑)。

それよりも、やはり野球のレベルの高さを感じた一年でしたね。とにかく打者のバッティングのレベルが高いので打たれないようにするのが大変でした。向こうの選手はパワーがありますから、失投するとホームランを打たれると思って間違いありません。ヒットだったらラッキーな世界です。僕の防御率を単純に見ても、日本にいるときから1点以上あがっていますから。

2年目にいい結果を出すためには、打者一人ひとりをしっかりと抑えるためにピッチングの質をもっと上げていかなければいけません。このことがやはり今後も一番苦労していくところかなと思っています。

少年時代に養ったバランス感覚

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
小学3年生の時から野球をはじめたそうですが、最初からピッチャー志望でしたか。また、野球以外にもサッカーや水泳をやられていたそうですが、その時の運動が現在の前田投手にどのような影響を与えていますか。

前田野球はピッチャーに憧れてはじめたわけではなくて、最初はショートなど内野手をやっていました。でも、もともと肩が強い方だったので、監督からピッチャーをやれと言われたのがきっかけで、4年生になってから掛け持ちでピッチャーもするようになりました。

野球以外にもスポーツ全般が好きで、2歳のときから水泳を始め、サッカーも好きでよくやっていたので、今でも苦手な動きや出来ないスポーツはあまりありません。子どもの頃の運動が今の自分に具体的にどのような影響を与えているか分かりませんが、よくバランス感覚がいいと言われることがあるので、そんなところにいろんなスポーツをやってきた影響が出ているのかもしれません。

セルフケアの大切さを意識するようになったきっかけは。

前田中学や高校では、専属のトレーナーがいる環境はなかなかありませんので、セルフケアは自分でやるしかないとずっと思っていました。治療器なんて持っていませんし、自分でストレッチをして疲れをとっていました。

ですから治療器を使うようになったのはプロに入ってからです。球団に置いてあって、トレーナーにやってもらったのが最初です。治療器はどのチームにもあると思いますので、野球選手であればほとんど皆さん使ったことがあると思います。実際に治療器を使ってみて、マッサージやストレッチとはまったく違うものだと感じました。それで、しばらくは球団のものを使っていたんですが、次第に自宅でも使いたくなって自分でも購入しました。

治療器の使用は日常の一部

コンディショニング中の伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
ケガのリカバリーだけでなく、普段のコンディショニングとして治療器を使うことはありますか。

前田2013年に右肩のケガと右上腕三頭筋膜炎、右脇腹の違和感などのケガに悩まされた時期がありますが、原因は調整不足でした。調整を早めて開幕に臨んだのですが、それがうまくいかなかったのだと思います。ケガをするとやはり普段のコンディショニングの大切さが分かります。コンディショニングをおろそかにするとケガにつながることも改めて学びました。

今では、練習前や練習後に治療器を使っています。そのときの身体の疲れ具合によって使い方は違います。シーズン中はずっと投げているので疲れがゼロのときはほとんどないので、常に疲れをとりのぞき、疲れを溜めていかないようにしています。また、試合が近づくにつれてケアの仕方も変えながら使っています。今では結構、自分で使うことが多くなって、海外でも使用しています。

コンディショニング中の伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
どのような症状の時に治療器を使っていますか。また、どのような効果を感じていますか。

前田疲れがひどいときや軽いときなど、そのときによって使い方は違ってきます。基本的には肩と肘ですが、腰が張ったときや足などにも使うことはあります。肩、肘、腰、ハムストリングが多いですね。

プロになってずっと使ってきているので、今ではそれがなくなると不安になります。治療器を使うことが日常的に当たり前になっているので、使用しないことがかえって想像できないくらいです。マッサージなど人の手だけではやはり限界があると思いますし、自分一人の力で疲れをとっていくというのは、こういう治療器の力に頼らないと、なかなか難しいと思います。

コンディショニング中の伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
ご自宅では治療器をどのように使われていますか。

前田日によって異なりますが、テレビを観ながらリラックスして、ずっと電気や超音波を当てています。基本的にはいつも1時間くらいですが、長いときはそれ以上ずっと使っています。登板のすぐ後はあまり使いません。登板間隔のときに試合が終わって家に帰ってからが多いですね。

また、遠征先にも持って行き、ホテルの部屋で使っています。簡単に持ち運べて、移動も大変ではないので重宝しています。

コンディショニング中の伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
日々のセルフ・コンディショニングの仕方について教えてください。

前田日本では超音波治療器を使うことが多かったのですが、海外に移籍して登板間隔が短くなり、疲れを残さないようにするために電気も使えるコンビネーション治療器を使うようになりました。日々のセルフ・コンディショニングに関しては、登板日は自宅やホテルで、特に気にならなくても肩や肘に超音波を当ててから球場に向かうようにしています。あとは、朝起きてちょっと気になるところ、たとえば腰が気になると思ったら腰に超音波を当てます。

ケアをしたいときは超音波を当ててからハイボルテージを使用します。ときには組み合わせてコンビネーション治療をすることもあります。まずは肩や肘を中心に自分で超音波を当ててから、その日の試合の映像を観たり、データをとったり、テレビを観たりしながら、電気を当てっ放しにしています。何もしないでテレビを観るのは時間がもったいないので(笑)。

また、海外は移動時間が長いので、小型の微弱電流治療器を使ったりすることもあります。でも、基本的には自宅やホテルの部屋でリラックスした状態での使用が多いですね。僕は小型の微弱電流治療器が好きで、広島時代の2008年からずっと、登板日の前日以外は毎日使っていました。マイクロカレントを使いながら寝るというのが基本でしたね。睡眠をしっかりとらないと疲れはなかなかとれないので、僕の場合は睡眠時間はしっかりと8時間くらいとるようにしています。治療器の効果については、一度、肩の調子が良くなったことがあってから、それ以来めちゃ信じています(笑)。

マエケン体操はセルフ・コンディショニング

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
マエケン体操とは肩甲骨をほぐす運動とお聞きしていますが、はじめるようになったきっかけとその効果を教えてください。

前田この運動をはじめたのはPL学園時代からで、当時のトレーナーに勧められたのがきっかけです。それ以来、プロになった現在もずっと取り入れています。ウォーミングアップとしていい準備になります。

野球の場合は攻撃と守備がはっきりと分かれているので、攻撃の時間はベンチに座っていることが多く、身体が休んだ状態になります。そこからいきなり投げるというのは、やはり難しいことなので、一度、準備運動を入れてから投げた方がスムーズにいきますし、身体への負担も少なくなります。そこでこの運動をキャッチボールを始める前や試合中のイニングの間に必ずやってから投げるようにしています。

この運動は、実は投球動作に近いといいますか、ほとんど一緒の動きです。ボールを持たずにどこでもすぐにできますし、この運動をすることでケガのリスクを下げることができ、ケガの予防にもつながると思います。子どもたちがおもしろがって僕の真似をしていますけど、中には理由が分からなくてやっている子どもたちもいるとは思いますが、身体にはとてもいいことなので、是非やって欲しいですね。

アスリートは誰もが負けず嫌い

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
負けず嫌いな性格とお聞きしていますが、負けず嫌いが高じると無理をして身体を酷使する紙一重の危険性を孕んでいるのではないでしょうか。

前田アスリートは負けず嫌いな性格の人が多いのではないでしょうか。僕は基本的に野球以外でも負けることは好きじゃないですし、たとえゲームでも勝つまではやめないところがあります(笑)。

誰も皆ケガはしたくないし、身体も壊したくはないでしょうが、勝負の世界はそんなに甘くはないので、無茶をしないと勝てません。常に自分の限界まで力を出すということはすべてのアスリートに求められていると思います。それがケガにつながるかつながらないかは分かりませんが、たとえケガをしたとしてもそれは仕方がないことと思います。むしろ力を残しながら勝っていくのは難しいことではないでしょうか。

球種により身体への負担は変化する

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
現在、球種は幾つお持ちですか。これからも増やしていくのでしょうか。また、一つの球種をマスターするのにどれくらいの時間がかかるものですか。

前田いま、変化球はスライダー、カーブ、チェンジアップ、ツーシームの4種類を投げています。今後も球種を増やしていこうと思っています。

新しい球種をマスターするには、その球種にもよりますし、また人それぞれだとは思いますが、何球か投げただけでいい感触を得られる時もありますし、なかなか投げられない時もあります。実際にスライダーは時間がかかりましたが、チェンジアップはそんなにかからなかったと思います。カーブは昔から投げていますから、そんなに悩んだ記憶はないですね。

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
球種の違う球を投げるとき、身体への負担は指先だけでしょうか。また、前田投手はコントロールに定評がありますが、コントロールの精度を上げるために鍛える身体の部位はどこでしょうか。

前田確かに球種によって身体にかかる負担は違いますね。場所的には、大きくは肘や肩になりますが、腕を振る角度が変わってくるので、負担が掛かる場所も違ってきます。また、指にかけるのか、抜くのかでも負担は全然違います。

少年野球では変化球が禁止されています。これは筋肉がまだ発達していない段階で投げると肩や肘に負担を掛けるからで、変化球を投げるのはそれなりに身体への負担が大きいという証拠だと思います。実際に大人になっても変化球はいろんな角度から投げるので、ケガにつながるリスクはあると思います。もちろん、それは変化球でなくストレートでも同じで、速い球を投げれば身体への負担は増します。ですから選手たちはケガをしないように身体を鍛えて練習を重ねるわけです。

コントロールの精度を上げるのは、僕の場合は感覚でしかないですね。アウトコースだったらこうやって投げる、インコースはこうやってという感覚が自分の中にあるので、それを基に投げています。人によると思いますが、僕の場合はコントロールを磨くために投げ込むのは好きじゃないですね。もちろん、こうすれば絶対にあそこにいくという確実なものはないので、その日その日の感覚をブルペンや試合中に照らし合わせて調整しています。高めにいくなら低めを意識して投げますし、逆もあります。また、身体が軽いのか重いのか、調子がいいのか悪いのかでコントロールも変わってきますし、いい時はそんなに考えなくても狙ったところにいくので、かえって深く考えないようにしたりしています。うまくいかない時は、身体のどこかを意識して投げるのか、メンタルで修正するのかいろいろ工夫しながら調整しています。

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
理想のピッチャーはいますか。

前田理想のピッチャーはいっぱいいます。特に子どもの頃は、桑田さんが好きでした。バッティングも守備もすべてにおいて高いレベルでやっていましたので、将来は桑田さんのようなピッチャーになりたいと思っていました。

次の目標はワールドチャンピオン

インタビューに答える、伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
リフレッシュの仕方を教えてください。

前田シーズン中は野球のことばかりで、これといったリフレッシュ方法はありませんね。家に帰って家族との時間をゆっくりと楽しむのがリフレッシュかなと思います。シーズンオフでしたら、ゴルフに行ったり友達と会ったりすることがリフレッシュにつながっているかなと思います。

海外移籍2年目は、どのような年にしたいですか。今後の目標がありましたら教えてください。

前田2017年はワールドチャンピオンになることを目指して頑張りたいと思います。課題はいっぱいありすぎてひとことでは言えません(笑)。なかなか簡単にいく世界ではありませんし、2年目ということで周囲の期待も高まるので、1年目よりいろんな意味でしんどくなるでしょう。これからも身体のケアをしっかりとしながらコンディションをベストに保ち、大きなケガをすることもなくいい結果が出るように、一つひとつの課題を克服しながら前進していきたいと思います。

伊藤超短波イメージアスリート 野球選手「前田健太」さん
前田健太 (まえだ・けんた)

1988年4月11日生まれ。大阪府出身。
小学3年生から野球を始める。PL学園高校に進学し、2006年のドラフト会議で広島東洋カープから1位指名を受けて入団。 2010年、史上最年少で最多勝などの投手三冠のタイトルを獲得し、沢村賞や最優秀投手など投手関連のタイトルを独占。2012年には、日本プロ野球史上74人目のノーヒット・ノーランを達成。オールスターゲームでMVPを獲得。2013年、第3回WBCに出場し、大会公式ベストナインに選出。2015年、自身2度目となる沢村賞を受賞。ベストナインやゴールデングラブ賞を獲得。2016年より活躍の場を海外に移し、日本人投手のルーキーイヤーでは歴代1位タイとなる16勝を挙げ、チームの地区優勝に大きく貢献する。