INTERVIEW インタビュー

髙室 侑舞

Yuma Takamuro

強みを生かし、弱みを鍛えて目標達成へ

世界に挑むジュニアアスリート

2023.08.21

車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手

インタビュー・文=三河賢文 写真=島崎信一

「これしかない」と思える競技との出会い

インタビューに答える、車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
車いすテニスを始めたきっかけと、競技の魅力について教えてください。

髙室もともと、姉が車いすテニスをやっていました。私は健常者のテニスこそ経験していたものの、車いすテニスはなかなか機会がなかったんです。あるとき姉に帯同することがあり、体験会があって初めてプレーしました。その瞬間、「これだ! これをやりたい!」と思ったんです。7~8年前なので、小学4年生の頃ですね。

車いすテニスはクアードの種類こそあるものの、年齢や障害などがあまり関係ありません。私はもともと健常でテニスに取り組んでいたので、そのときと違いがあるのが嫌だったんです。その点、コートの広さやネットの高さも違いがないし、「これならやってみたい」と思えました。

インタビューに答える、車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
競技を続けている中で、やめたいと思ったことはなかったですか?

髙室私はメンタルが不安定な方なので、毎日がスランプのような感じです(笑)。でも、周りからのサポートがあるので助かっています。ちょっと落ち込んでいるときは、それを察して結果が出せるように持ち上げてくれるんです。

でも、特に海外へ一人で行くようになってから、たびたび「やめたい」と思うことがありました。私は英語が苦手なので言語が分からず、お母さんもいない環境は厳しくて。中でもイタリアなど、英語圏外は辛いですね。主な遠征先はヨーロッパ、アジア、オセアニアなど。ヨーロッパは英語圏じゃないので、インターネット翻訳を活用しています。

ダブルスも海外選手と組むため、ジェスチャーですべて対応しなくてはいけません。でも、良い球を打てれば「ナイス」と声を掛けてくれますし、相手も私が喋れないことを察するとゆっくり話してくれるので、なんとか続けられています。そもそも、他にやりたいと思えることもないんですよね。今は車いすテニスだけ。だから「やめたい」というのも、本心じゃないのかもしれません。お母さんに「じゃあ、やめる?」と言われても、結局ずっと続けていますから(笑)。

車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
海外遠征も多いと、練習を含めてスケジュールを組むのも大変だと思います。スケジュールや日々のトレーニングは、どのように組まれていますか?

髙室年間でしっかり決めているわけではありませんが、まずその年にどこまでランキングを上げたいのかを決めて、そこから大会スケジュールを見て計画を立てます。どの試合で優勝すれば何ポイントなのか確認し、私なりに道筋を決めてからコーチに相談する流れです。私の場合、試合数は年間でだいたい15試合くらいになります。

今年は捻挫などで棄権した大会もありましたが、海外遠征は年10回前後でしょうか。1回の遠征あたり、1週間強ほど現地に滞在します。選手によっては、もっと頻繁で1回の滞在期間が長い人も少なくありません。そのため、中にはヨーロッパに住んでいる選手もいます。ヨーロッパは陸続きなので、住んでしまえば試合での移動は楽ですから。

通常だと、試合がなければ午前中に練習して、その後に治療かトレーニングを行います。トレーニングならジムで2時間くらい。どこか痛めたときなどは、定期的に治療へ行きます。でも、治療器を使うようになってからはケガをしにくくなりました。

コンディション維持のポイントはいつものルーティン

車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
試合・練習ともに、高いパフォーマンスを維持することは競技において非常に大切だと思います。コンディション管理として、何か実践していることはありますか?

髙室栄養などは全然まだ意識できていませんが、睡眠時間は寝過ぎというくらい取っています(笑)。特に私の場合、車の移動が多いんですね。練習は埼玉県から神奈川県まで行くのですが、道路状況によっては3時間かかるなんていう日もあって、その間もだいたい睡眠時間に当てています。

また、海外に行くときは長時間のフライトになるし、私はジュニアとシニア両方の大会に並行して出ているので1日の試合数も多いんです。1試合は平均1時間ほどですが、多いときは1日4試合なんていうこともあります。そうなると、寝る時間になったら身体がどっと疲れてしまうので、睡眠は最低でも7~8時間は取るようにしています。ときには1日1時間しか起きていない日もあるくらいで、疲れたときはお風呂にも入らず眠ってしまうことも。そして、寝る前と寝ている間には小型の低周波治療器を使い、それでも固まっていればストレッチしてから朝ごはん。このルーティンが一つでも抜けていると、良いコンディションが維持できません。

メンタルの状態が悪いときは、コーチなどへ伝えると褒めながら練習してもらえます。あとは、友達に褒めてもらうこともありますね(笑)。褒められると気分が上がって、気持ちが安定するんですよ。これも、私にとってはコンディション管理の一つだと思います。

その他にあまり意識していることはありませんが、読書とコスメ集めが好きなので、休みの日はコスメを買いに行くか、本をずっと読んでいます。読書中なんて、お母さんから話しかけられても無視しちゃうほど。厚い本が好きで、シリーズなど最初から最後まで集めているんです。練習はもちろん大切ですが、それ以外に好きなことで時間を使うって、実はとても大切なことだと思います。

治療器は常に手放せない相棒

インタビューに答える、車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
セルフケアに治療器を使われているとのことですが、初めて使ったのはいつですか? 実際の使用方法と併せて教えてください。

髙室去年、手首と肘をケガしてしまったとき、姉が使用していた治療器を貸してもらいました。身体に電気を当てること自体が初めてで、不思議な感覚でしたね。使った後は身体が楽になっていて、治療器の効果を初めて実感した経験です。

車いすテニスでは、どうしても手首や肘を痛めることが多くなります。ですから予防として、移動の飛行機内ではずっと治療器を付けていますね。隣の席に座った方から、「それ何?」と聞かれたこともありました。試合直前は感覚が違ってしまうので使いませんが、試合後は他の試合を観戦しながら付けています。

まず低周波で痛みを鎮静させ、寝る前にマイクロカレントを使うのが基本的な流れです。試合日程がすべて終わったらすぐ帰って寝てしまうのですが、帰りの送迎車でも低周波を当てて、その後の就寝中はマイクロカレントを使います。治療器はほぼ毎日使っていて、もはや一つのルーティンです。

その他に治療院にも通っていて、そこでも治療器を使っています。行けるときは週3回くらい。痛みなどなくても、定期的なケアとして通っているんです。身体のメンテナンスを怠ると、すぐにケガしてしまうので。実際のところ、治療器を使い始めるまでは治療こそしていたものの、それほど重要性は感じていませんでした。でも、いざ身体が壊れ始めると重要性が分かります。

インタビューに答える、車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
毎日使っていると、何かで忘れてしまったときは不安になりそうですね。そういう失敗談があれば、ぜひ教えていただけませんか?

髙室大会後、疲れて治療器を付けずに寝てしまったときがありました。翌日の試合は身体がとても固くて、どうしようというくらい疲れが溜まっていたんです。試合には勝ったものの、治療器は欠かしちゃいけないって思いましたね。その翌日に付けて寝た試合は調子が良くて、いつもなら1時間くらいかかるはずが30分で終わりました。

私は忘れ物が多いので、治療器は常にカバンへ入れておくようにしています。過去にはパスポートを忘れたり、バッグごと忘れたりしたこともあったほどなので(笑)。

常に上を見続けて、世界で勝つ

インタビューに答える、車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
競技するうえで、治療器が相棒のようになっているんですね。今現在、目標とされている大会や選手について教えてください。

髙室来月、4大大会であるUSオープンのジュニアに出場します。昨年はジュニアの開催が、大会2週間前に分かりました。そのため準備期間が短かったのですが、今年は分かっている状態で全員が目標とし練習に取り組んでいます。ですから、レベルは昨年より上がると思いますが、それは私も同じこと。昨年は準優勝だったので、今年は優勝が目標です。

また、4大大会のシニアの部に出場し、入賞することも目標としています。出場するにはシニアなら16位、ジュニアは8位に入らないといけません。20位から先にいくのが難しいのですが、きっと果たしたいと思っています。

選手として目標にしているのは上地結衣さんで、今年の神戸大会でダブルスを一緒に組ませて頂きました。緊張してしまいミスの連発だった私に、「大丈夫だよ」「思いっきり振っていこう」と言ってくれたんです。大会は優勝できましたが、上地選手がいたからこその結果です。私も上地選手のように、周りを見てプレーできる選手になりたいと思っています。

インタビューに答える、車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
その目標に向けて、今課題に感じていることはありますか? 実際に取り組んでいることがあれば、合わせて教えてください。

髙室私は筋肉がつきにくいこともあり、筋力が本当に足りません。特に腹筋周りと腕は、もう少し鍛えなきゃいけないと思っています。そのため、練習はもちろんですが、今はトレーニングをメインに取り組んでいます。また、体力ももう少しつけたいですね。

上位にいる選手は例えば片足がないなど切断の方が多いのですが、義足があれば歩けますし、健常者とほぼ変わりません。病気で動かない人と比べれば、どうしても有利になるんです。トレーニングにも、自然と差が出てしまいますよね。また、海外の選手は日本人と比べて手足が長いので、これも差になります。この差を埋めるためには、私自身もっと力を磨かなければいけません。

ただし、私にも強みはあります。自己肯定感が低いのですが、だからこそ自分が上手いとは思えないし、思わない。その分、現状に満足せず練習に取り組めます。また、周囲からはサーブの速さを褒められることが多く、現在トップの選手より速く打てるのも強みです。特にフォアを速いスピードで打つのは得意。よくコーチから「侑舞の3割が相手の10割だ」って言われます。だから、基本は3~5割でプレーして、最後に10割で仕留めるのが私なりの戦い方です。この強みを生かし、そして負けている部分をしっかり鍛えて、目標を達成します。

車いすテニスプレーヤー「髙室 侑舞」選手
髙室 侑舞 (たかむろ・ゆま)

2006年10月5日生まれ。東京都出身。
車いすテニスプレーヤーである姉・髙室冴綺(東京パラリンピック日本代表)の遠征に付き添った際、車いすテニスを体験したことをきっかけに、小学4年生で車いすテニスを始める。
中学時代から数々の大会で好成績を収め、高校進学後もDUNLOP KOBE OPEN 2022 シングルス優勝・ダブルス準優勝、飯塚オープン2022 シングルス準優勝・ダブルス準優勝、DUNLOP KOBE OPEN 2023ダブルス優勝と活躍を続ける。
2022年の全米オープンにおいて、四大大会で初めて開催されたジュニア車いす部門に出場。女子シングルスで準優勝を果たす。